M&Aアドバイザリー第2部
第1グループ マネージャー/シニアコンサルタント
T.R. ※写真右
M&Aアドバイザリー第2部
第2グループ チーフコンサルタント
T.K. ※写真左
中小企業の後継者難による廃業ラッシュが心配されている中、M&Aがそれを回避する「切り札」として期待されています。第三者へ事業を承継することで価値を繋いでいくということです。これを成功させるため、譲渡側・買収側双方に対して誠実に向き合い、様々な専門知識を結集させ、熱意を持ってゴールへ導くM&Aコンサルタントの存在が重要となります。今回は、オンデックの実際の成約事例を基に、M&Aコンサルティングの業務の流れを紹介します。
“初めてのM&A”の不安を払拭したひと言
「良い買い手さん、必ず見つかりますよ」。シニアコンサルタントのT.R.のその言葉を聞いて、「M&Aなどしたことがない。一体、どうなることやら……」と不安を感じていた79歳の社長は、ふっと表情を和らげた。
社長が経営している会社は、IoTの機能を備えた特殊なブイを、海外企業から輸入し、国内の遠洋漁業の事業者に販売している。水産業のIT化が進むことを予測した社長が、他社に先んじて海外企業と契約。日本における独占販売権を獲得しており、業績はいたって好調だった。
問題は事業承継にあった。当初、息子さんへの承継も考えたが、息子さんはシステムエンジニアとして働いており事業を引き継ぐ意志はなかった。熟慮した結果、息子さんへの事業承継は断念したものの、廃業してしまうと社員の雇用を守れなくなり、取引先にも迷惑がかかる。そこで、国が設けている事業承継の相談窓口へ、息子と共に向かったのだ。その窓口から紹介されたのがオンデックのシニアコンサルタントであるT.R.と、チーフコンサルタントのT.K.のコンビだった。
相談を受けた日は、専門家として対応しただけで仲介業務を依頼してもらえるかどうかは、先方が同業他社と比較検討した結果次第。相談業務を終えた帰り道、T.R.とT.K.は「社長さんも息子さんも、とても人柄の良い方達でしたね。心から応援したくなる企業さんですよ」「うん。財務が非常に綺麗でしたし、安定して利益が出ている。“効率的な産業への変革に、ITによって貢献する”という方向性も時代にフィットしていて、伸び代も十分ですね」と話し合った。
そして2人とも同じ結論に達する。「良い会社だから、絶対に買い手が見つかるだろう」。
水産業界の知識をとことん突き詰めた
専門家から「必ず成功する」と太鼓判を押されたことは、先方に強い印象を与えたようだ。「一番、安心感があった会社なので、ぜひサポートをお願いしたい」と、社長からオンデックへ、正式にM&A支援の依頼があったのは6月。社長自らオンデックのオフィスまで出向いてくれての申し出だった。社長から強く要望されたのが「私は今年の12月で80歳になる。それまでに買い手を見つけてもらえないか。安心して引退したい」ということ。通常、この規模の会社のM&A案件であれば、1年程度は掛かる。それを半年で完遂するには、綿密なスケジューリングが必要だ。そこでT.K.は、急いで半年間の工程を計画。先方と毎週ウェブ会議を設定すると同時に、買収候補企業へ提出する詳細な資料の作成を進めた。
オンデックでは、多種多様な業種からの相談があるが、案件対応の大前提として必要になるのが業界知識の習得だ。本件はかなりニッチな分野であり、彼らにとっても初めて相対する業界。“ブイを海にばら撒いた後、どうやって回収するのか?”など、ビジネスフローの基本的なことがわからない。そこでT.K.は、水産庁や漁業関係者のウェブサイトや関連書籍を読み込むなどして業界について勉強した。「事業をきちんと把握しなければ、会社の魅力を把握できない。それができなければ、正しい企業価値評価も、ベストなマッチングも実現しえない」という信念から、業界理解をとことん突き詰めた結果、クオリティが高く、かつ、わかりやすい説明資料を完成することができた。
一方、T.R.は英文の契約書と格闘することになる。クライアント企業の好調な業績の源泉は、主力商品のブイについて、国内で独占販売権を持っていること。今回、M&Aが実現した時、「前提条件が変わったので、契約を解消する」などと、商品の輸入元である海外企業から言われてしまっては、元も子もない。
社内で英語が堪能なメンバー、弁護士資格を持つメンバーらの力を借りながら、契約書のレビューを重ねた。その結果、「海外企業へM&Aのことを伝えるタイミングと、伝え方を間違えなければ、恐らく大丈夫だろう」。そうT.R.は判断した。
たった4ヵ月でプロジェクトを成功させた
2人の綿密な事前準備の甲斐あって、予想通り、買収企業候補はすぐに見つかった。7月に企業概要書を提示し始めたところ、お盆が明ける頃には、複数の企業から「話を聞いてみたい」と名乗りが上がった。これについては、オンデックがこれまでに築いてきたネットワークや提携関係が役に立った。最も有力な買収企業候補は、地方の金融機関からの紹介によって出会えたのだ。
その会社は、大きな漁港の町に本社がある、船舶関係の備品や用具を卸している商社。水産事業を強化するうえで、強い商材を獲得したいと考えていた。このM&Aが成立すれば、この会社は、成長性のある新規事業を手に入れられることに加え、自社の取り扱い商材や顧客基盤とのシナジーも期待できる。T.R.はこの会社が「一番、事業の“肌合い”が良く、シナジーを生み出せる提携先だ」と感じた。
見込みの高い1社が見つかってからは、T.K.は買収企業側に、T.R.は譲渡企業側に付く形で役割を分担。日々状況を共有しながらプロジェクトを進行させた。最大の山場である譲渡企業・買収企業のトップ面談も終始なごやかなムード。T.R.が見込んだ通り、両社の“肌合い”が良かったことで、最終的には予定より早い10月末に成約した。T.R.とT.K.のコンビは、通常は1年程度かかるM&A案件を、4ヵ月ほどでまとめたのだった。
この間、2人は主力商品の輸入元である海外企業への対応も行った。先方へのM&Aの告知文面案についてはオンデックで起草した。その海外企業も同族経営で、かつ社長は高齢。そこで、「共感を得られるだろう」と予想し、後継者問題があることを伝えた上で、「良い会社に出会えて、一緒になることで事業をより拡大できる見込みがある」ことを丁寧に説明した。「このM&Aによってあなたの会社にもハッピーをもたらせると思う」と締めくくったメールを、条件合意のタイミングで、譲渡側・買収側双方の了承を得て、送信した。
すると、すぐにクライアント企業の社長宛てに「丁寧にありがとう。引退しても僕らはずっと友達だよ!」という、拍子抜けするほど陽気なコメントが届いた。細心の注意を払って告知したことが功を奏したかどうかはわからないが、重要な取引関係性に亀裂を入れることなくまとめられたことに、T.R.もT.K.も心から安堵した。
スピードだけでなく「納得感」も重視した
ディール後、クライアント企業の社長からは、改めて「2人とも、すごくよくやってくれた。本当に泥臭く働いてくれて驚いたよ」というコメントをいただいた。譲渡企業にも買収企業にも誠実なスタンスを徹底し、丁寧な仕事をするのがオンデックの流儀。「それがしっかり伝わった手応えがありました」とT.R.は振り返る。
じつは、T.R.は「なるべく多くの選択肢を提示し、その中から決めて欲しい」という考えから、当初、譲受候補として投資会社も提示していた。事業会社による買収の場合、社風が崩れたり、支配・被支配の関係になったりするリスクがある。その点、投資会社は無色透明の立ち位置。いったん投資会社が受け皿となり、組織体制や事業面を強化したうえで、次の会社に承継できる。「独立性や自社らしさを維持したい」という企業には、投資会社が好ましいケースもあるからだ。
実際、投資会社との面談をアレンジし、複数社から買収意向表明書が提示された。その上で、「やはり今回は、同じ水産関係で直接のシナジーも見込め、従業員も安心して一緒になれる会社にしよう」という最終判断となった。「他の選択肢も、きちんと検証した上でベストな選択をしてもらえたので、スピードだけでなく、納得感という面でも、満足いただけたと思います」。そう、T.R.は清々しい表情で語る。
M&Aコンサルタントの真価は泥臭く働くこと
一方のT.K.は「良い会社さんだったので、他社さんが仲介を手掛けても、相手は決まっていたと思います。ただ、肌合いがマッチする会社とスピーディーに成約できたのは、オンデックが担当したからできたことだと思っています」と誇らしげだ。3年前、「本質的な顧客貢献」や「クオリティの追求」といったオンデックメンバーの行動指針“ONDECK WAY”に共感して、入社したT.K.にとって、本件はその指針を体現する思い出深いものになった。
「譲渡側・買収側の両者をしっかり理解して、希望の成約タイミングに向けて逆算しながら案件を円滑に進め、予定より早くクロージングできた。特に、譲渡企業側のことを自分がきちんと理解していることが重要。買収企業側に対して、雄弁に説得力を持って説明できますから。この経験は、以降に担当した案件に活かせていますね」(T.K.)
T.K.の先輩であるT.R.から見ても、「本件はT.K.にとっても良い経験になったと思います」という。経験値がモノをいうM&Aコンサルティングの世界では、オンデックに入社したからといって、すぐに実務や交渉が上手くできるわけではない。だが一方で、案件を手掛けなければ成長はできない。そこでオンデックでは、新たにジョインしたメンバーには、なるべく早い段階で、社歴の長い人と組んで案件を担当してもらう方式を取り入れている。
本案件のT.R.とT.K.のコンビは、まさにそうした考え方の元、結成されたもの。「相手を探すだけで終わらず、丁寧にポイントを押さえ、論点を整理しながら円滑に進行していく、オンデックならではの泥臭いプロジェクトマネジメントの真骨頂を学べたのではないでしょうか」(T.R.)
T.R.自身も、オンデックの行動指針に共感してジョインした一人だ。特に気に入っているのは、行動指針の基礎になっている「行動原理」だ。その「誰にも恥じない、すべての人に誇れるビジネスを」というフレーズを常に意識している。「当たり前に聞こえるかも知れませんが、やろうと思えば“誇れない仕事”もできてしまう世界。だからこそ、我々が徹底して大切にしている価値基準なのです」。そう、T.R.は胸を張る。
最後に、「M&Aコンサルティングという仕事の価値とは?」と聞くと、2人は異口同音に答えた。「付加価値を生み出せる企業を社会に残せることと、その社員たちの雇用を守れることですね」。そうした価値の創出に向けて、全方位に誇れる仕事をする。そのシンプルで高い志を燃やしながら、2人は今日も目の前のプロジェクトに真摯に向き合っている。
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